LOVES





「ふあぁ…」
うららかな春の陽気に誘われて、大きな欠伸がほわっと溶ける。
まだ冬が明けてそんなに経ってないけれど、日差しはだんだん温かくなってきてる。
……とても、気持ち良い。

今日は週に一度の休日で。
おれとアキラは部屋のベッドに背を預け、ぼんやりとテレビなんかを見ている。
せっかくの休みだし天気もこんなに晴れているんだから、外に出掛けるのも良いんだけど…。
「……、っ……」
小さな声が隣から聞こえてきて、目線だけをそぅっと向ける。
そこには、いかにも抑え切れないって感じで、口元を覆っている白い指先があった。
おれのすぐ傍で、こんな無防備に寛いでいるアキラを見ていられるなら…さ。
「眠くなった?」
「…ん…」
部屋でだらだらなんてのも、案外捨てたもんじゃないって…思うんだよな。


───そうやって、しばらくそのままでテレビを見ていたら。

「…!」

…こつん、と。
肩にかかる温もりを感じた。

Two of a kind



「………」
テレビの音が部屋に響く中、突然の小さな衝撃に身体が固まってしまった。
(………)
身動き出来ないまま、隣の気配を探ってみる。
(…やっぱり)
もしかして…と、出来るだけ静かに覗いてみれば、綺麗な碧い瞳が瞼で遮られているのが見えた。
耳を澄ますと、微かな寝息も聞こえてきて…。
「…寝ちゃったのか…」
ここまで無防備なアキラは珍しい。
いつもなら、眠くなれば自分で横になるのに。
(ど、どうしよう…)
予想外の展開にドキドキしながら、それでも起こさないように姿勢を戻した。


再びテレビの音だけになる。
……だけど、おれの意識はそんな所になんか行く訳なくて。
(……こういう展開って、昔読んだ漫画であったよな……)
ぼんやりと、そんな事を思う。
漫画の中じゃ確か……。
「………」

確か、キス…してた、よな。

そうだ、うん。

(キス、したい)

ゴクリと息を飲み込んで、恐る恐る顔を近付けてみる。
アキラはおれの肩に頭を預けたまま、身動き一つしない。
……完全に寝入っているみたいだ。
更に顔を近付ける。
吐息がかかるくらい近付いて……それから。

「………」

(……やっぱり、やめよう)

近付けた顔を離す。
そうして、また元の姿勢に戻った。

静かに揺らめく水面のように、穏やかなアキラの寝顔。
それが……とても、気持ち良さそうで。

(起こしちゃ、可哀相…だよな)


キスは諦めたまま、アキラを見つめる。
……夢を見ているのかな。
時々、髪と同じ色の睫毛がふるふると揺れて。
(可愛い……アキラって睫毛長いよな…)
そんな事を思いながら、テレビの音量を小さくして揺れるそれを眺めた。


そのうちに、おれも何だか眠くなって。
「ふぁ…ごめんアキラ…肩…借りるよ…」
重さをかけないように頭をアキラの横に置きながら、眼を閉じる。
柔らかな陽だまりの中、ふわりと鼻に届くのは。

(……きもち…いい……)

穏やかな体温と、シャンプーの匂い。

確かなアキラの温もりを感じつつ、おれはそのまま眠ってしまった。









「…ぃ、…ぉぃ」

遠くで、アキラの声が聞こえる。

(……、…あれ…?……)
「おい」
アキラの声が段々と大きくなって、おれの意識を覚ましていく。
(…アキラ…、起きたのか…)
「ケイスケ、起きろ。こんなとこで寝ると風邪ひく」
どうやら先に起きていたらしい。
アキラの温もりはとっくに無くて、おれだけ床に寝ているみたいだ。
(何だ…おれ、本気で寝入っちゃったんだな…)
頭の中がまだぼんやりする。
ごめん……、せっかくアキラが起こしてくれているのに……身体が動いてくれないんだ。
「ケイスケ」
アキラの手がおれの肩にかかった。
そのまま揺すって起こしても良かったのに。
(…あったかい…)
触れるだけのその温度が、すごく……気持ち良くて。
(……ごめん)

………おれは狸寝入りをする事にした。

「…、…」
頭の上で溜め息が聞こえる。
(ごめんアキラ…、もう少しだけ、だから…)
心の中で謝って、それからまたうとうとする意識を感じていると……ふと、アキラの気配が消えた。
(あれ…どこ行ったんだ…?)
自分勝手にアキラを騙したくせに寂しく思いながら、それでも残る眠気に身体を丸める。

───ふわり。

突然、身体が暖かい何かに包まれた。
反射的につい起きそうになる。
……だけど。
(…毛布…?)
柔らかな温もりと心地良い肌触り。
(…ありがとう、アキラ…)
アキラの気遣いを無駄にしたくなくて…そのままにしてしまった。


コチコチと、時計の音だけが響いてる。
(……今何時だろ……)
随分と眠ってしまったみたいだから、もしかしたらもう夕方かもしれない。
(夕飯…何にしよう)
このまま眠っていたいけど……アキラ一人に任せたら悪いよな。
(やっぱり起きよう)
ようやく目が覚めてきて、そろそろ身体を起こそうかと……そう思った時。
(……?)
不意に、眼の前が陰った。
───アキラだ。
(起きてたの、バレたのかな)
一瞬、ヒヤリとする。
だけど。

(…!)
柔らかいものが唇を掠めた。
頬にかかる、熱い吐息。

………そして。




「……睫毛、長かったんだな……」












───それからしばらく、おれは狸寝入りを続ける事を決めた。

(アキラの睫毛も…長いって、知ってる…?)

心の中で、微笑みながら囁いて。









───なあ、アキラ……おれ達、案外。




"似た者同士"




───なのかもしれないね。




Two of a kind / 似た者同士